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「ちょっとあれへ上って見ないこと?」
「ちょっとあれへ上って見ないこと?」
「うん……」少年は生返事をしている。
「そんなら私が先へ行くわ……」
 それでもと云いかねて、やはり少年は自分が先に立ってその木蔦のからんだ階段をすこし危なっかしそうな足つきで上って行った。が、その中途まで上ったかと思うと、少年は急に足を止めた。そこの壁の上に彼の顔を赧(あか)くするような落書の描いてあるのを発見したからである。少年はくるりと踵(きびす)を返すと、
「やっぱり悪いから止(よ)そうよ」と云いながら、ずんずん一人で先に降りてしまった。少女はそこに一人きり取り残されて、しばらく呆気(あっけ)にとられているように見えたが、やがて彼女も彼のあとを追った。
 そうしてそのまま二人は彼等の love-scene には持ってこいに見えたその空家の庭からとうとう立ち去ったのである。
 少年はその家を遠ざかるにつれ、つくづく自分に冒険心の足りないことを悲しむばかりであった。そうしてその辺の外人居留地かも知れない洋館ばかりの立ち並んだ見知らない町の中を少女と肩をならべて歩きながら、そういう弱虫の自分に対して自分自身で腹を立ててでもいるかのように、急に何時(いつ)になくおしゃべりになった。
「君、メリメエという人の小説を読んだことがある?」
「いいえ、ないわ」
「そうかい、僕はその人の小説がとても好きなんだがなあ……僕はその人の短篇でね、『マダム・ルクレエス街』というのを読んだことがあるんだ……その中にね、丁度、今みたいな家が出てくるんだぜ、それは伊太利(イタリイ)の話だけれど……ところがその空家の二階の長椅子がね、一つだけ埃がちっとも溜(た)まっていなくて、何だか始終人に使われている見たいだったんだ……実はそこでね、毎晩あるお姫様がその恋人とあいびきをしていたということが後でわかるんだよ。そう云えば、今のあそこの二階もね、僕は何だかそんな秘密でもありそうな気がしてならなかったよ……やはりさっき上って見ればよかったなあ……」
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【2006/02/18 20:50 】
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